ニューノーマルとは?幸せと生産性を両立させる柔軟な働き方と企業の課題を解説
新型コロナウイルスの影響を受けて、フレキシブルワークという時間や場所に縛られない働き方が日本でもニューノーマル(=新たな日常)となりつつあります。
労働市場では将来的に人材不足が深刻化すると懸念されており、企業にとって重要なのは社員のワークライフバランスやウェルビーイングに貢献する柔軟な働き方を提供することです。
本記事では、働き方のニューノーマルや、企業が直面する課題にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
■ニューノーマルとは?
ニューノーマルとは、"New"(新しい)と "Normal"(通常の)を組み合わせた言葉であり、「新たな日常」という意味を持ちます。
ある要因によって生活様式や働き方が変化し、その変化が定着した状態を指す言葉です。
ニューノーマルという言葉は、2003年頃からアメリカ合衆国で使用されていましたが、2020年以降は、コロナ禍以降の生活様式をニューノーマルと表現することが一般的になりました。
例えば、配膳や配達を担当するロボットや非接触でのキャッシュレス決済などは、生活様式に溶け込み、ニューノーマルとなっています。
また、働き方におけるニューノーマルとしては、テレワークや時差出勤などが挙げられます。
このように、テレワークやキャッシュレス決済など、社会情勢の変化以降に定着した生活様式や働き方をニューノーマルと呼びます。
■新たな働き方がビジネスのニューノーマルとなっている
新型コロナウイルス感染症の拡大や働き方改革の影響により、フレキシブルワークがビジネスのニューノーマルとなっています。
【働き方のニューノーマル】
・テレワーク
テレワークや在宅勤務と呼ばれる働き方で、オフィスへの出社を必要とせずに業務を行う方法です。
・フレックス勤務
定められた出社時間がなく、社員自身が選んだ時間に出社する働き方です。
ただし、一定の勤務時間帯(コアタイム)が設定されている場合もあります。
・時短勤務や週短勤務
1日あたりの勤務時間を短くしたり、週の勤務日数を減らす働き方です。
・副業や兼業
複数の企業に所属し、複数の仕事を並行して行う働き方です。
例えば、コロナ禍では感染リスクの低減のために、テレワークや時差出勤などが導入されるようになりました。
また、働き方改革により、兼業や副業が認められる企業も増え、新たな働き方が定着した理由の一つです。
また、テレワークの導入により、子育てや介護の都合で通勤が難しかった人々にとって、働きやすい環境が生まれました。
これにより、様々な事情を抱える人々の雇用機会が増えるなど、ニューノーマルな働き方の特徴もあります。
■フレキシブルワーク
フレキシブルワークとは、働く場所や時間、休暇の取得などに自由度を持たせた働き方のことです。
女性の社会進出や高齢化の進展などに伴い、欧米企業を中心に導入されてきましたが、コロナ禍を契機にその需要がさらに高まっています。
リモートワークが普及し、そのメリットが広く実感されたことから、より柔軟な働き方であるフレキシブルワークに対する需要が強まっています。
Adecco Groupが2022年に発表した調査レポート「未来のグローバルワークフォース2022」によると、世界的に自由度の高い働き方への要望が高まっています。
例えば、勤務時間などに自由度がある仕事に転職したり検討している人の割合が59%に達しており、前年比で19ポイントも増加しています。
さらに、勤務場所や週4日勤務などの自由度も求められています。
これにより、企業がフレキシブルワークの環境を提供することは、人材獲得や従業員の定着などにおいてますます重要となっていくでしょう。
また、Adecco Groupが2023年に日本国内で行った調査によれば、多くの人事担当者が前向きな姿勢を持ってフレキシブルワークに取り組んでいることが明らかになりました。
新型コロナウイルスの感染状況の改善を受けて、2023年度以降に人事制度を見直す企業のうち、テレワークを「縮小する」と回答したのは全体の10.5%であり、「廃止する」と回答したのはわずか5%でした。
一方、「(新たに)導入する」は18.7%、「拡充する」は27.9%にも達しました。同様に、オンライン会議やサテライトオフィス、コワーキングスペースなどの利用も減少や縮小する企業はほとんどなく、コロナ禍で加速した新しい働き方が定着しつつあることを示しています。
経済活動が再開される中で、企業は魅力的なフレキシブルワーク環境を提供することが求められます。
■フレキシブルワークの効果
過去の研究によれば、在宅勤務は女性のワークライフバランスやウェルビーイングに寄与することが示されていますが、男性の家族との関わり方や意識の変化についてはほとんど研究がなかったそうです。
しかし、東京大学大学院経済学研究科教授らの国際共同研究チームが2021年に男性を対象に調査した結果、在宅勤務が男性にも影響を与えることが明らかになりました。
その結果は興味深く、家族とのつながりや幸せに対するポジティブな影響が見られたと報告されています。
在宅勤務の週1日増加により、男性の家事・育児時間が約6%増加し、家族との時間や家事分担も増えたという結果が示されました。
また、生産性に対する負の影響はほとんど見られませんでした。つまり、在宅勤務は男性社員の生産性を維持しながらウェルビーイングを高める機能があるということです。
この国際共同研究チームによれば、日本は他の国に比べて「性別役割分業」の意識が強い傾向にあります。
他の多くの国でも女性は男性に比べて家事・育児などの無償労働を担っている割合が高いですが、日本ではその差が特に顕著です。
OECDの平均では女性は男性の1.9倍の家庭内無償労働を担っていますが、日本ではこの差が5.5倍にもなります。
具体的な割合では、日本の男性は家事・育児全体の15%程度しか担っていません。
一方、欧州諸国では男性も30~45%程度を担っています。
2022年に導入された産後パパ育休制度は、このような状況を変える契機となるでしょう。
国際共同研究チームは、「フレキシブルワークを広く取り入れることは、女性の活躍を推進し、ジェンダーバランスを確保するためにも重要です。
男性が家事・育児に積極的に参加することは、子どもたちのジェンダー観にも影響を与え、将来的には性別役割分業の意識を変えることにもなります。
男性が積極的に家事・育児に参加する国では出生率が高い傾向があり、少子化対策にも繋がると期待できます」と述べています。
また、性別役割分業の意識は世代によって差があり、これにも留意する必要があります。
日本でも上の世代ほど「男は仕事・女は家庭」という意識が強く、若い世代ほどその傾向が薄れています。
しかし、年長者は若い世代の要望に気づきにくいため、企業内の意思決定が年長者によって行われることが多いため、若い世代が望まない働き方が押し付けられることがあります。
若い社員が家族との時間を大切にするのであれば、その意欲を尊重することは働きがいを提供し、モチベーションやエンゲージメントの向上にもつながるはずです。
長時間労働の是正によって期待できるのは、自己研鑽に充てる時間の拡大です。
以前から日本は、ビジネスパーソンが学びのための自己投資や企業の人財育成に費用を投じる点で、海外に比べて遅れていると指摘されてきました。
もちろん社員の自己研鑽を強制するわけにはいきませんが、企業が労働時間の短縮に取り組み、それが結果的に社員のウェルビーイングだけでなく、学びやスキル向上にもつながるならば、企業の中長期的な成長にも必ずプラスに働くでしょう。
■働き方のニューノーマルに関する企業の課題
働き方のニューノーマルが定着する中で、企業も新たな課題に直面しています。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、急速な制度設計の必要性と並行して、新たな働き方の導入が求められたためです。
ニューノーマルな働き方に関する企業の課題は、以下の3つです。
・DXの推進
・ニューノーマルに対応する社内規定の策定
・コミュニケーション機会の減少
新たな働き方の定着によって生まれる課題は、従業員の満足度や生産性の低下にも関わる場合があります。
そのため、フレキシブルワークのようなニューノーマルな働き方を導入している企業は、これらの課題に注意を払う必要があります。
・DXの推進
ニューノーマルな働き方には、DXの推進が欠かせません。
ニューノーマルな働き方では、オンライン上でのコミュニケーションや非接触サービスの利用が増える傾向があります。
また、DXを通じて、テレワークや短時間勤務などの働き方でも生産性を維持するためのシステムやサービスの開発が求められます。
なお、DXの推進には「デジタルアーキテクト」や「データサイエンティスト」といったDXを推進する人材の育成や確保も重要です。
DXの推進が進まない企業は、DX人材の育成や確保に取り組む必要があります。
・セキュリティ対策
ニューノーマルな働き方では、従来以上にセキュリティ対策が重要です。
オフィス外から社内システムへのアクセスや機密情報の持ち出しなどが増えるため、注意が必要です。
例えば、テレワークを導入している企業では、社内データのアクセス権限の管理不備や悪意のある無線LANの利用により、パスワードや機密情報が漏洩するリスクが存在します。
また、コンピューターウイルスやスパムメールによる情報漏えいのリスクも懸念されるポイントです。
ニューノーマルな働き方においては、企業や従業員は情報セキュリティの強化に取り組む必要があります。
テレワークに関するセキュリティトラブルについて詳しく知りたい方は、総務省が公開している「テレワークセキュリティガイドライン」を参考にしてください。
・ニューノーマルに対応する社内規定の策定
ニューノーマルな働き方に対応するためには、社内規定や福利厚生制度の見直しや策定が必要です。
これは、多様な働き方に公平な対応をするためのものです。
例えば、テレワークを行う社員には「テレワーク手当」を支給し、出社する社員には「通勤手当」を支給することで、両方の働き方を公平に処遇することができます。
また、テレワークを行う社員の休憩時間や業務管理に関する規定も策定しておくと良いでしょう。
これにより、休憩時間や業務内容が明確になり、社内での混乱を防ぐことができます。
ただ単にテレワークなどの制度を導入・拡充するだけでなく、従業員の生産性とウェルビーイングを両立させるために、組織の意識改革や風土づくり、業務プロセスの見直しや電子化なども重要となるでしょう。
また、日本企業がフレキシブルワークを取り入れる上では、長時間労働の是正も重要です。
労働時間が長ければ、働き方の自由度を高めることは限られてしまいます。
日本の平均年間労働時間は他の先進国に比べて極端に長いわけではありませんが、「週50時間以上働く雇用者」の割合が高いことが課題とされています。
労働時間が週50時間を超えると、生産性が急激に低下することが調査研究で示されています。
日本の労働時間が長い原因は、長時間労働を美徳とする価値観だけでなく、業務体制や組織文化において仕事が属人化し、他の社員が代替しづらいという問題も関与しています。
ニューノーマルに対応するには、このような構造的な要因も解消していく必要があります。
・コミュニケーション機会の減少
ニューノーマルな働き方では、社員同士のコミュニケーション機会が減少することも課題です。
コミュニケーション機会の減少は、モチベーションや生産性の低下につながる可能性があります。
コミュニケーション機会の減少を感じる場合は、日報制度やランチミーティングなど、コミュニケーションの機会を確保する制度の導入を検討してみてください。
これにより、社員間の情報共有や交流を促進し、チームの結束力を高めることができます。
■ニューノーマル時代に求められる働く人のスキル
ニューノーマルな働き方には、主にオンライン上で業務を円滑に進めるためのスキルが求められます。
従来の働き方とは異なるため、コミュニケーションの頻度や方法、使用するシステムなどが変化するからです。
【求められるスキルの種類】
● オンラインコミュニケーション
・テキストベースのコミュニケーション
・音声ベースのコミュニケーション
・ビデオベースのコミュニケーション
● ITリテラシー
・基本的なPC操作スキル
・サイバーセキュリティに関する知識
・使用するシステムやアプリケーションの理解
など
テレワークを導入するとオンラインコミュニケーションが増えます。
そのため、以前はオフィス内で気軽に行っていた質問や相談も、テキストで説明を書く時間がかかったり、質問の意図が相手に正しく伝わらないといった状況が生じる可能性があります。
また、DXの推進に伴い、企業内の情報や顧客情報がデータ化されることが増えます。
このため、データを管理するアカウントやパスワードの漏洩を防ぐためにセキュリティ対策を取る必要があります。
これらのように、業務を円滑に進めるためには、さまざまなスキルが求められます。
また、働き方の変化によって生じるリスクを事前に予想し、対策を講じることも重要です。
コロナ禍を契機に注目されるようになった「ニューノーマルな働き方」。
この記事を参考にして、新たな時代に即した働き方を実践する方法を探ってみてください。